―わたし好みの新刊―    2013年10月

『にわやこうえんにくるとり』   藪内正幸ぶん・え  福音館書店
 故藪内正幸さんの絵本の復刊である。藪内さんは大阪の出身で独学の努力家というこ
ともあって私は特に感心が強かった。高校を出てすぐ東京の科学博物館に出向かれ専門
家の指導を受けて動物の骨格や生態を熱心に勉強された。それらがもとになって,野鳥や
ほ乳動物の絵本を刊行されるようになった。この鳥シリーズのほかに『しっぽのはたらき』
『なにのあしあとかな』『日本の恐竜』『野や山にすむ動物たち』などがある。
 写真絵本(図鑑)が多く出回り出しているとき,藪内さんのしっかりとした子細な絵は 生
き物の脈動まで伝わってくる。「絵をみて楽しんでもらえるように、動物そのものを たっぷ
りと描き、シンプルな背景で、生息環境や季節感もあじわってもらえるようにし よう」(『野
や山にすむ動物たち』)と藪内さんは書いている。また写真と絵の関係 については,「光っ
たり陰が映ったりで、写真が必ずしも真実を伝えるとは限らない。私の絵の背景はいつも
薄日にしている」(1994,12,17毎日新聞)と語っておられる。
 この「日本の野鳥」シリーズの復刊について藪内正幸美術館の藪内竜太さんは, 「復刊
を熱望する声は多く、その人気の高さを実感しておりました」と藪内絵本の 根強い人気
ぶりが書かれている。
 さて,この「日本の野鳥」シリーズは6巻あるが,とりあえずこの1巻に目をやってみ よう。
最初に〈こじゅけい〉が出るが,さすがこの鳥にはなかなかお目にかかりにくい。 しかし
,「ちょっとこい,ちょっとこい」という鳴き声は山に入るとよく聞く。ちょっと小 太りの愛らしい
鳥だ。続いて〈きじばと〉〈つばめ〉〈ひよどり〉〈もず〉〈しょう びたき〉〈つぐみ〉〈うぐいす〉
〈しじゅうがら〉〈めじろ〉と続く。身近な野鳥たちを羽のすみずみ,目玉の輝きまで, 大きな絵
で再現されている。
 私は,吉祥寺にあった藪内さんのアトリエに出向いたことがある。藪内さんのやさしいまな
ざしや人柄がなつかしく思い出されてくる。              2013年4月刊 1400円

                 
『わたしのウナギ研究』             海部健三著    さ・え・ら書房
 ウナギというと蒲焼きの臭いが鼻につくが,ウナギほど不可解な魚はいない。ウナギは日
 本の川で狩猟されるが,生まれはなんとはるか太平洋沖のマリアナ沖という。どうしてわ
 ざわざ,何千Kmという長距離移動をしてくるのだろうか。アユやサケも川と海を行き来す
 るがこちらは海といってもほとんど海岸沿いを移動する。ウナギの産卵場所が分ったのは
 2009年というからまさに今やっとウナギ研究の糸口が見えてきたというところらしい。こ
 の本は,その始まったばかりのウナギ研究に取り組む若い研究者のウナギ研究物語である。
 最初に,「なぜ,ウナギ研究なのか」が書かれている。近年漁獲量が減ってきているウナ
 ギについてその生態が分からなければ資源を守ることもできない。著者は未開拓分野の
 ウナギ研究に意欲を燃やしている。第2章に「ウナギの産卵場調査」がある。「ウナギ
 は自然発生するのか」と思われたほど,当初は卵が見つからなかった。ヨーロッパでは
 ウナギの産卵場所は早くからつきとめられていたが,ニホンウナギの産卵場所に見当をつ
 けられたのは1965年,そして,2009年になってやっと産卵場所がつきとめられた。「うな
 ぎの卵探し」は読んでいてわくわくする。広い海であんな小さな幼生のもとを突き止めて
 いくのにどんな手法がとられていくのだろうか。話は次々とウナギ研究の核心にふれていく。
 ウナギを解剖して様々な器官を調べるが「耳石」に注目するという。なんとその「耳石」
 からウナギの成長過程や棲んでいた環境までもわかるという。ウナギは大きな犠牲をはら
 ってなぜ淡水と海水を行き来するのかその謎は体中塩分にあるという。微妙な濃度の差
 だ。日本滞在中のウナギは何を食べているのか,これも意外。
 文章も読みやすくすいすいと引き込まれていく。中学生以上か。
                       2013年4月刊  1,300円(西村寿雄)
                      
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